自治体が主権者教育・選挙啓発を企画するとき対象・時期・成果の決め方
若年層の投票率を上げたいという課題は、多くの自治体が抱えています。
一方で、啓発物の量を増やしても数字が動きにくいことは、現場の担当者ほど実感しているはずです。
2022年参議院選挙における18・19歳の投票率は34.49%(総務省)でした。この数字を「関心の低さ」の証明として読むと、打ち手は広報に偏ります。
この記事では、事業を企画するときに決めるべきことを、対象・時期・成果・体制の順に整理します。
この記事は、こんな方に向けています
- 若年層向けの選挙啓発事業を企画する選挙管理委員会の担当者
- 主権者教育を所管する自治体・教育委員会の担当者
- 若者参画の仕組みを検討している議会・政策部門の方
- 外部団体との共催・委託を検討している方
- 事業の成果をどう説明するか迷っている方
対象|18歳直前ではなく、その手前に置く
啓発事業は、新有権者への周知に集中しがちです。
しかし、選挙権を得た時点で行動を変えるのは、それまでに一度も参加していない人にとって難しいことです。
対象を決めるときの目安は次のとおりです。
| 対象 | 適した内容 | 期待できること |
|---|---|---|
| 小学校 | 公共空間への関わり | 自分の場所という感覚 |
| 中学校 | 政策の比較・意思決定 | 選ぶ経験 |
| 高校 | 立案・立候補・熟議 | つくる経験 |
| 新有権者 | 手続の周知 | 投票所への到達 |
新有権者への周知は必要ですが、それだけではすでに関心のある層にしか届きません。
時期|選挙の直前に寄せない
選挙前は啓発の需要が高まりますが、学校の年間計画は前年度に決まっています。
選挙直前に依頼しても、授業時間を確保できないことがほとんどです。
- 学校と組むなら、前年度の秋までに打診する
- 選挙時期に依存しない通年の事業として設計する
- 生徒会選挙など、学校側にすでにある行事に接続する
生徒会選挙は、多くの学校が毎年必ず実施します。ここに事前学習を接続すると、選挙の有無にかかわらず毎年の機会になります。

成果|投票率だけを指標にしない
単発の事業で投票率を動かすことは困難で、因果も示せません。
そのため、事業として説明できる指標を分けて持ちます。
- 参加者数と、参加者の学校・学年の分布
- 参加者が政策を立案した数、比較した数
- 議員・職員との質疑の回数
- 参加後に、地域の課題を自分の言葉で説明できるか
- 翌年の継続実施につながったか
投票率は長期の指標として置き、短期は経験の量と質で説明するほうが、議会や庁内への報告に耐えます。
体制|共催・後援・協力を分けて設計する
外部団体と組むとき、最初からすべてを一つの契約にすると調整が止まります。
関わり方を分けて設計してください。
| 形 | 自治体側の負担 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 助言 | 小 | 初年度の試行 |
| 後援名義 | 小 | 学校への周知を助けたいとき |
| 備品貸与 | 中 | 投票箱・記載台が必要なとき |
| 共催 | 大 | 庁舎・議場を使うとき |
| 委託 | 大 | 継続事業として位置づけるとき |
初年度から共催で組むより、助言と後援から始めて実績を作るほうが、庁内の合意を得やすい場合があります。
実践の例
TEIGEN JPは、足立区役所・区議会・教育委員会・選挙管理委員会と共創して体験型主権者教育「モギ区長選」を実施しています。参加者は地域課題を分析し、政策を立案し、立候補し、選挙公報と演説をつくり、議員や参加者と熟議し、政策を比較して投票します。
2025年の開催では中高生30名が参加し、区議会議員11名が協力しました。
議員が加わることの効果は、参加者が「その財源はどこから持ってくるのか」「反対する住民にはどう説明するのか」という質問を受ける点にあります。資料には載っていない問いに答えた経験が、提案を変えます。
制度設計の研究としては、13〜24歳の声を政策形成へ接続する足立区若者議会構想を5段階で公開しています。ラウンドテーブルの設置から、連携協定、条例化、附属機関としての定着までを想定した構想です。
中立性の扱い
行政が関与する事業では、政治的中立性の担保が必ず論点になります。
TEIGEN JPは、実在の政党・候補者・争点の賛否を扱いません。参加者が立案した政策どうしを比較する形にしているため、現実の政治的対立を持ち込まずに意思決定の構造だけを扱えます。
組織としても、特定の政党・候補者を支持または反対せず、投票先の誘導を行わない方針を役員会で合意し、公開しています。
共催・後援、選挙啓発の協働、調査研究の連携はお問い合わせから承ります。予算や時期が決まっていない段階でも構いません。