総合的な探究の時間で地域課題を扱うテーマ設定から発表までの設計
総合的な探究の時間で地域課題を扱う学校は増えています。身近で、資料が手に入り、当事者にも会いやすいからです。
一方で、単元が終わったときに「調べてまとめただけだった」と感じる先生は少なくありません。
生徒の最終提案が、ポスター、SNS発信、イベント開催に集まりやすいのも、よく聞く悩みです。
この記事では、地域課題の探究が調べ学習で止まる構造と、生徒が意思決定まで経験できる設計を紹介します。
この記事は、こんな方に向けています
- 総合的な探究の時間で地域課題を扱う中学校・高校の教員
- テーマ設定の段階で生徒が動けなくなる状況に悩んでいる方
- 提案が広報や啓発に偏ってしまう理由を知りたい方
- 行政・議会との連携を検討している方
- 探究の評価をどう設計するか迷っている方
- 主権者教育と探究を接続したい方
調べ学習で止まるのは、決める場面が無いから
地域課題の探究は、多くの場合この順で進みます。
- 地域の課題を調べる
- 現状をまとめる
- 解決策を考える
- 発表する
一見すると自然な流れですが、ここには選ばなければならない場面がありません。
課題は与えられ、解決策は自由に考えてよく、発表すれば単元は終わります。誰かと対立することも、限られた資源を配分することもないため、提案は「良いこと」に落ち着きます。
ポスターやSNS発信が選ばれるのは、費用も権限も要らず、誰も反対しないからです。
| 段階 | 調べ学習型 | 意思決定型 |
|---|---|---|
| 課題 | 与えられる | 複数から選ぶ |
| 制約 | 特に無い | 予算・期間・対象が決まっている |
| 他者 | 資料の中にいる | 教室にいて反対する |
| 結論 | 各自の提案 | 一つに決める |
| 終わり方 | 発表 | 選択と、選ばなかった理由 |
テーマは「困っている人」から立てる
テーマ設定でつまずくとき、多くの場合は分野から入っています。防災、環境、高齢化、商店街——分野は大きすぎて、どこから調べればよいか分かりません。
そこで、分野ではなく人から入ります。
- この地域で、いま困っているのは誰か
- その人は、いつ、どこで困っているか
- 困っている状態が続くと、何が起きるか
- 誰が決めれば、それを変えられるか
最後の問いが重要です。「誰が決めれば変わるか」を調べると、生徒は自然に自治体の仕組み、予算、条例、議会に行き当たります。

分野から入ると資料集めになり、人から入ると意思決定の構造に届きます。
制約を先に置く
生徒に自由に考えさせると、提案は理想論になります。制約が無いからです。
単元の早い段階で、次の3つを与えます。
- 予算——使える金額の上限(実際の自治体の事業規模を参考にする)
- 期間——いつまでに効果を出すか
- 対象——誰のための施策か。全員は選べない
制約があると、生徒は初めて比べる必要に迫られます。同じ100万円を高齢者に使うのか子どもに使うのか、という問いは、調べただけでは答えが出ません。
反対されない案は、鍛えられない
意思決定を経験させるうえで、いちばん効くのは他者から質問される場をつくることです。
教室内で提案を比較し、投票で一つに決める形にすると、生徒は自分の案を守るために根拠を集め直します。
TEIGEN JPが足立区で実施している「モギ区長選」は、この構造を丸ごと体験にした事業です。参加者は次の順で進みます。
- 地域課題を分析する
- 政策を立案する
- 立候補する
- 選挙公報と演説をつくる
- 議員や参加者と熟議する
- 政策を比較して投票する
足立区役所・区議会・教育委員会・選挙管理委員会と共創して実施しており、2025年の開催では中高生30名が参加し、区議会議員11名が協力しました。
議員から受ける質問は、資料には載っていません。「その財源はどこから持ってくるのか」「反対する住民にはどう説明するのか」——この種の質問に答えた経験が、提案を変えます。

学校の時間割に収めるには
探究の時間は、まとまった時数を確保しにくいのが実情です。
単元全体を組み替えなくても、意思決定の場面だけを差し込む方法があります。
| 使える時数 | 差し込む場面 |
|---|---|
| 1コマ | 制約つきで案を比較し、投票で一つに決める |
| 2コマ | 政策立案と、他者からの質問への応答 |
| 4コマ | 課題分析から立候補・熟議・投票までを通す |
TEIGEN JPの出前授業は、中学校・高校向けに2〜4コマで実施しています。費用は1回あたり3〜5万円(+交通費・会場費は実費)です。1コマしか確保できない場合は、授業ではなく講演としてお受けしています。
学校側にお願いするのは、会場と日程の調整、事前アンケートの配布です(当日資料の印刷をお願いする場合があります)。教材・進行・投票箱は当団体が持ち込みます。
中立性は、扱う対象で担保する
地域課題を扱うと、政治的中立性を心配される先生がいます。
TEIGEN JPは、実在の政党・候補者・争点の賛否は扱いません。生徒が立案した政策どうしを比較する形にしているため、現実の政治的対立を教室に持ち込まずに、意思決定の構造だけを体験できます。
組織としても、特定の政党・候補者を支持または反対せず、投票先の誘導を行わない方針を公開しています。
中立性の考え方については、学校で政治を扱うときの中立性の記事にまとめています。
評価は、結論ではなく過程で見る
探究の評価が難しいのは、提案の良し悪しを採点しようとするからです。
意思決定型の設計にすると、評価できる観点が増えます。
- 課題を、誰の問題として定義できたか
- 制約のもとで、何を諦めたか
- 反対意見に、どう応答したか
- 選ばなかった案を、説明できるか
- 決めた後に、考えが変わった点はあるか
いずれも、提案書の完成度ではなく過程に現れます。最終発表だけでなく、途中の記録を残しておくと評価しやすくなります。
学校・教育委員会からのご相談は、公式サイトの窓口で受け付けています。年度の途中でも、実施時期が決まっていない段階でも構いません。