「主権者教育の出前授業に興味はあるけれど、何から始めればいいか分からない」「校内をどう説得すればいいのか、正直不安」——先生方から、そんな声を本当によくいただきます。
その迷いは、決して準備不足のせいではありません。政治を扱う授業は、一人で抱えるには判断することが多すぎるのです。今回は、私たちTEIGEN JPが学校と一緒に授業をつくってきた経験をもとに、検討の始め方から実施後の振り返りまでの流れをご紹介します。読み終わる頃には、明日、校内で何から話せばよいかが見えているはずです。

出前授業の導入が、校内説明で止まりやすい理由
主権者教育の必要性には賛同が得られても、具体的な導入段階で話が止まることがあります。理由は、授業内容だけを説明しても、学校側が判断しなければならない事項が残るからです。
- ナゼ?通常授業ではなく、外部団体へ依頼するのか
- 生徒は授業中に何を行うのか
- 特定の政治的立場への誘導をどう防ぐのか
- 何コマ必要なのか
- 費用に何が含まれるのか
- 学校側の準備負担はどの程度か
- 授業後に何が残るのか
担当者が「良い授業になりそうです」と説明するだけでは、管理職や関係教員は判断できません。校内で必要なのは、魅力の説明よりも、教育目的、役割分担、リスクの線引きです。
主権者教育を導入したい教員が慎重になるのは、熱意が足りないからではありません。政治を扱う授業について、自分一人では説明責任を負いきれないと感じるからです。その不安を、担当者個人の問題にしないことが出発点になります。
相談前に「生徒に何を経験させたいか」を一枚にする
外部団体へ相談する前から、完成した授業案をつくる必要はありません。ただし、「主権者教育をお願いします」だけでは設計できません。次の項目を一枚に整理します。
| 確認項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 対象 | 学年、人数、学級数 |
| 時間 | 1コマの長さ、確保できるコマ数 |
| 目的 | 生徒に何を考え、経験してほしいか |
| 接続 | 公民科、総合的な学習・探究、生徒会活動との関係 |
| 懸念 | 中立性、時間、予算、参加状況など |
| 希望時期 | 実施日だけでなく校内決裁の時期 |
| 学校の事情 | 扱いに注意が必要なテーマ、設備、教室環境 |
目的は、たとえば次のように、授業中の行動まで具体化します。
- 地域課題を自分の生活と結び付けて考える
- 複数の政策を比較する
- 自分の政策を他者の立場から見直す
- 人前で提案し、質問を受ける
- 投票理由を自分の言葉で説明する
「政治への関心を高める」だけでは、授業後に何を確認するのかが曖昧です。TEIGEN JPが重視するのは、政治に詳しい生徒を増やすことだけではありません。10代が社会の意思決定を、自分とは無関係なものとして眺めるのではなく、問い、考え、選ぶ側に立つことです。
相談から実施までに、学校と外部団体が決めること
TEIGEN JPの「モギ区長選 for School」「モギ校長選」は、中学生・高校生を対象とした2〜4コマのプログラムです。参加者は課題を捉え、政策を考え、演説や熟議を経て投票します。導入までの基本的な流れは次のとおりです。
1.条件を伝えて相談する
対象学年、人数、コマ数、希望時期、授業目的を伝えます。詳細が決まっていなくても構いません。
2.授業で残す工程を決める
2コマと4コマでは、同じ内容を単純に短縮するのではなく、学習の深さを変えます。時間が限られる場合は、課題数、政策数、発表時間を絞ります。
3.中立性と役割分担を確認する
TEIGEN JPは、特定の政党、政治団体、候補者を支持または反対しません。実在する政党、候補者、政治的争点への賛否を授業では扱いません。一方で、参加者個人が意見を持つことまで制限しません。
4.校内で実施条件を確定する
日時、会場、費用、教員の役割、資料印刷、写真撮影などを確認します。
5.生徒へ事前案内を行う
事前アンケートを配布し、授業の目的と当日の流れを説明します。事前知識の多さを競う授業ではないことも伝えます。
6.授業後に判断の変化を振り返る
投票結果だけでなく、何を根拠に考えたか、他者との対話で政策や判断が変わったかを確認します。

学校側の準備を、教材づくりと混同しない
外部授業を導入すると、学校側で多くの教材を準備しなければならないと思われることがあります。TEIGEN JPの場合、教材、授業進行、投票箱は団体が持参します。学校側の主な準備は、会場と日程の調整、事前アンケートの配布です。当日資料の印刷をお願いする場合があります。
| 学校側が担うこと | TEIGEN JPが担うこと |
|---|---|
| 校内決裁、日程、会場の調整 | プログラムの設計 |
| 生徒の状況や注意事項の共有 | 教材の作成と持参 |
| 事前アンケートの配布 | 当日の主な進行 |
| 必要に応じた資料印刷 | 投票箱などの備品 |
| 当日の生徒対応 | 政策立案、熟議、投票の設計 |
学校側にしか分からない情報は、外部団体へ渡す必要があります。たとえば、普段発言する生徒が固定されている、学級内で対立が起きやすい、文章を書く時間が必要な生徒がいるといった状況です。外部講師に任せきるのではなく、生徒が参加できる条件を学校と団体で共同設計することが重要です。
1コマに模擬選挙を詰め込まない理由
学校では、1コマしか確保できないこともあります。その際、短い時間に政策立案、演説、質疑、投票をすべて入れれば、形式上は模擬選挙になります。しかし、投票箱へ用紙を入れることだけが主権者教育ではありません。
政策を比較する前提がなく、候補者の話し方や印象だけで投票すれば、選挙の形式を体験しても、判断の過程は学べません。
そのためTEIGEN JPでは、1コマしか取れない場合は、模擬選挙の授業ではなく講演として実施します。学校向け講演は2万円からです。体験型授業は2〜4コマで、2日間への分割もできます。
「短くても全部入れる」より、「限られた時間で何を確実に残すか」を選ぶほうが誠実です。2コマなら、一つの課題について政策を考え、比較し、投票するところまで。4コマなら、質疑を受け、異なる立場から政策を修正するところまで扱えます。
費用は授業時間だけで判断しない
「モギ区長選 for School」「モギ校長選」の費用は、1回3〜5万円に、交通費と会場費の実費を加えた金額です。校内で検討する際は、授業時間だけでなく、次の内容を含めて考えます。
- 事前の打ち合わせ
- 学校条件に合わせた授業設計
- 教材作成
- 当日の進行
- 投票箱等の備品
- 振り返りの設計
予算が限られている場合は、無理に内容を維持しようとせず、コマ数、対象人数、学校側で行う事前学習を整理します。ただし、費用を下げるために授業を過度に圧縮すると、外部団体を呼んだにもかかわらず、生徒が話を聞くだけで終わる可能性があります。何を外部へ依頼し、何を学校内で行うかを分けることが必要です。
主権者教育で残したいのは、正解ではなく問い直す経験
TEIGEN JPの合言葉は「問いは、社会を動かせる。」「Always Be a Questioner.」です。これは、質問をたくさん出すことだけを意味しません。自分が良いと思った政策についても、「誰が負担するのか」「別の立場から見ても成立するか」「見落としている人はいないか」と問い直す姿勢です。
主権者教育の授業で、全員を同じ意見にする必要はありません。大切なのは、異なる意見を聞き、自分の判断を修正し、最後に自分で選べることです。
学校内で検討を始める場合は、対象学年、人数、確保できるコマ数、希望時期を整理してご相談ください。